いじめと学校側の責任

いじめの場としての学校
いじめの最多発場所は学校です。
子どもは学校に通わなければなりません。
そこでいじめが行われたならば、学校はそれを看過出来ない義務を持っています。


学校の安全義務・責任


学校教育法の趣旨に沿えば、校長や教師はその教育活動にともなって、生徒に対し、生徒の生命・身体の安全を守るべき義務を負うとされています。
これは、総じて、安全保持義務、安全配慮義務、安全確保義務、安全注意義務などと呼ばれています。
したがって、校長や教師が、いじめを看過し、または放置したことによって被害が発生した場合には、この義務懈怠に対し主に民事上の損害賠償責任が問われることになります。
被害生徒側が学校側に損害賠償請求をする根拠としては、不法行為と債務不履行をあげることができます。

このように、学校側には上記の様な責任があります。
確かにいじめの中心舞台は、学校で為されることが最も多いでしょう。
しかし、いじめは学校、家庭、社会などすべての環境に起因する問題です。
学校のみが全ての責任を負い、いじめを根絶できるものではありません。
したがって、学校の負うべき責任の範囲にも自ずと限界があると考えなければなりません。
それをカバーして、一歩ずつでもいじめの根絶を果たすためには、子どもを育て見守る親自信の自覚と、保身にとらわれない学校側の真摯な努力の協調が必要であると強く感じます。

1.学校の安全義務・責任
 学校側の安全義務について、「学校教育法等」にはこの安全義務を定めた明文の規定がないので、この義務の根拠は明かではありません。
 しかし、学校教育法の精神ないし立法趣旨、学校教育の条理、信義則に従えば、その根拠を求め得ることができると思われます。
 さらに、「平成8年7月26日の文部省通知」でも示されているように、学校側が職務上当然にこの義務を負うことは否定できるものではありません。

 すなわち、 「いじめについての学校側の安全義務」とは、学校側がいじめによる被害発生を防止ないし軽減すべき適切な対策を行わなければならないという作為義務です。

したがって、校長や教師が、いじめを看過し、または放置したことによって被害が発生した場合には、この義務懈怠に対し主に民事上(不法行為と債務不履行)の損害賠償責任が問われることになります。

 めの結果生じた被害の程度などの具体的状況に応じて判断されることになります。

2.いじめ予見義務
 いじめは、陰湿化し、教師等の目の届かない所で行われることが多いため、これを防止するのが困難であると言われています。
そのためには、生徒の動向に関心を払い、注意深く観察するなどして、その発見に努めることが重要であり、教師の職務の一つであると認識されています。
 すなわち、学校側の安全義務には、「いじめ予見義務」が含まれるといえます。

(1) 予見可能性
 学校側の責任を問うためには、「被害の発生を予見することが可能であった」、ということが要件となります。
 つまり、学校側が損害の発生を予測していた場合、あるいは損害の発生が通常予測され得るもので、通常人の経験則から相当の注意を払えば予測できるものである場合でなければなりません。
 具体的には、「ある生徒の行動により、他の生徒の生命、身体、精神、財産等に重大な危害が及ぶことが現実に予想される」ような場合です。

(2) 予見の困難性
 近年のいじめの特質は、それが隠れて行われ、被害生徒もいじめの事実を学校や親に言わない傾向が強いことです。
 被害生徒自身が被害事実を言わない理由としては、次のことが予測されます。
    @報復が恐ろしい
    A教師や親に話してもいじめが解決しない
    B自分を「惨めないじめられっ子」と見られたくない
    C他の生徒から注目されたくない

 
また被害生徒が、恐喝などのいじめを受けた結果、万引きや親の金を持ち出すなどの問題行動をしている場合には、この傾向はさらに強まるでしょう。
 さらに、学校側にとっては、被害生徒が「仲良し非行グループ」の一員であるのか、集団的・継続的いじめを受けているのかを判別しにくい場合もあるでしょう。
 そして、個々の被害事実が発覚したときにも、これが突発的な生徒間事故か、あるいは継続的いじめか、という判別は非常に困難である場合も推測されます。

 このように、いじめは、生徒間事故に比べ、継続的に行われる点で、予見可能性が認められやすいと考えられがちですが、いじめの特性からは、その予見が極めて困難な側面があるのも事実でしょう。

(3) 気がつかない責任 
 いじめの事実があるにもかかわらず、本来なら気が付くはずであったのに、故意または過失によって、それに気がつかないでいた場合には、学校側にいじめ予見義務違反があるというべきでしょう。
 たとえば、学校側が以下の事を把握している場合には明かな予見義務違反と考えられます。
    @集中的、かつ、継続的に暴行を受け又は悪戯をされている事実を把握していた
    A親から訴えを受け、善処を求められていた
    B生徒に長期間の欠席、早退の急増などがある
 このような場合には、学校側はいじめに気が付かなかったという抗弁をできなくなります。
 また、生徒に長期間の欠席、早退の急増など、いじめの存在が推測される際には、学校側は決してこれを軽視すべきではなく、当該生徒から事情を聴取するなどして、いじめの有無を把握する努力をなすべきであろうと思われます。



3.いじめ対策義務
 学校側が被害生徒やその親から救済を求められたり、いじめの被害や現場を発見するなどして、いじめが顕在化した場合には、学校側に具体的、個別的な結果回避義務、換言すれば、「いじめ防止対策義務」が発生すると考えられています。

(1) 一般的いじめ防止指導
 いじめが顕在化していない状況であっても、学校側にはいじめを防止するための事前的、日常的指導が求められているといわれています。
 これは、日常の教育活動の一環としての人権尊重の教育で、以下の法律によって明記されています。
 @教育基本法1条
   教育基本法第1条は、教育の目的として、「人格の完成をめざし」、「個人の価値」を尊ぶことを挙げています。

 A学校教育法21条1項
 小学校の教育目標として、次のことが謳われています。
「学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と共同、自主及び自律の精神を養うこと」
 これは中学校及び高等学校においても引き継がれています(51条1項、45条)
 
 したがって、学校側としては、生徒に、いじめが人権侵害であること理解させ、望ましい人間関係を確立するための人権教育を行う必要があると言えます。
 この意味で、「いじめの防止の問題はまさに学校側の生徒指導の対象に含まれるものであると考えられます。

(2) いじめ防止対策義務
 @いじめ防止対策義務の発生

 以下のような場合には、学校側に具体的、個別的ないじめ防止対策義務が生ずることになります。
   1)いじめが顕在化し、学校側がこれによる被害の発生を実際に予見していた場合
   2)いじめの徴候が具体化し、被害の発生を予見し得る状態にあった場合

 A具体的な防止対策義務の内容
 いじめ事件に関する判例においては、一般論として、防止対策義務の内容を次のように具体化しています。
  (中野富士見中学校いじめ自殺事件・東京地判1991(平3)・3・27日 判時1378号26頁より)
 1)関係者から事情聴取などの調査をして事態の全容を正確に把握する
 2)関係生徒に対する個別的な指導・説諭による介入・調整
 3)当事者の所属するクラス、学年、学校全体の問題として生徒に集団討論させ、いじめを根絶する指導を行う
 4)関係生徒の保護者との連携による対応
 5)被害生徒の登校を見合わせる
 6)学校教育法35条出席停止又は学校内謹慎等の措置
 7)学校指定の変更又は区域外就学についての具申
 8)児童相談所又は家庭裁判所への通告
 9)警察その他の司法機関に申告して、加害生徒をその措置に委ねる。

 深刻ないじめを知った教師の多くは、以上の対策のなかの、生徒に対する指導を中心に何らかの対策を行っているものと予想されますが、その指導の効果は十分とはいえず、いじめの解消に至っていないのが現況です。
 その他の対策についても、加害生徒の取り締まりに類するような対策はいじめの抜本的解決にはならないと考えられます。
 とはいうものの、これらは、対症療法的な最低限の対策として学校側に課せられた義務と言えるでしょう。


 いじめが社会的問題化して、学校側の責任が厳しく問われるようになるに伴って、教師個人や学校がいじめの事実をひたすら隠そうとする体質が生まれているように思われます。
 こういうことが為された場合には、明らかに保身のための隠蔽であると言わざるを得ません。
 
つまり、学校側はいじめ問題が公になり、その責任を追求されることを恐れるあまり、教師がいじめの徴候を察知しても、見て見ぬふりをして、何らかの防止対策を怠る傾向が在るように思います。 
、あるいは、学校内だけで対処しようとして、学校としていじめの事実を保護者などに訴え、協力を呼びかけることをしないのが現状ではないのでしょうか。。

 このような事実が明かな場合には、学校側に
いじめ防止対策義務違反が認められます。



4.学校の責任の範囲
一般的に、教師の生徒に対する安全義務の範囲は、「学校における教育活動及びこれと密接不離な生活関係」に限られる、とされています。具体的には以下のようになります。
   @授業や学校行事などの教育活動中の事故について
   A休憩時間・放課後・部活動中での事故について

ところが、いじめ事件の場合は、継続的に行われるといういじめの特性から、このような時間帯による区分が明確ではありません。
また、法律上、不作為による違法を認定することは容易ではありません。

そのため一般的には、学校側の違法性を認定するためには、以下の事が必要条件となります。
 @学校側が危険の切迫性を知っていること。
 Aまたは知り得べき状況にあって、かつ「その措置をとれば容易に生徒の生命及び健康等の被害の発生を防止でき、しかもそうしなければその結果の発生を防止でき」ない状況にあったこと


このように、学校側にも責任が在りますが、その限界を知っておくことも必要です


(1) いじめの特殊性と学校の責任
 @いじめの特殊性(隠蔽性)
 いじめが意図的に教師の目を盗んで行われることから、学校側の責任にも限界を認めざるを得ません。
 いじめの徴候をいち早く察知し、関係生徒からその実態を正確に聞き出すことは、至難のことであると思われます。
 したがって、教師のなし得る生徒の動静把握や事情聴取には限界があるのも事実です。

 これを行おうとすれば、現在の学校の状況においては、有形力の行使(警察介入など)や、生徒の管理を強める結果になり、2次的な次のような弊害も発生してしまう懸念も在ります。
 「一般に、学校教育という集団教育の場においては、児童が他の児童との接触や衝突を通じて社会生活の仕方を身につけ、成長して行くという面がある。
 したがって、学校としては児童間の衝突がいっさい起こらないように、常時監視を行って児童の行動を抑制し、管理しようとすることは適当ではない」

 
 A教師の限界
 いじめの解決には、心理学・社会学など各方面からの考察も必要とされることから、教師のいじめ防止能力にも限界を認めざるを得ないとされています。
 そこで、いじめの解消に当たって学校側は、その能力の限界を認識した上で、保護者との協力や外部の相談期間との連携を図る義務があると言われています。
 (2) 学校側の責任
 @学校側の責任が問われない場合

 学校側がいじめを発見できず、あるいは防止対策を講じたにも関わらず、いじめ被害が発生してしまった場合、結果的にいじめ被害を防止できなかったという理由だけで、一概に学校側に安全義務違反があったと判断するわけにはいきません。

 1)教師が通常の注意を払って、生徒の動静を観察している限り、いじめを予見できなかったとしても、教師の予見義務違反を問うことは困難であると言われています。
 2)学校側がいじめの防止に「積極的に努力している場合には、たとえ執拗ないじめによって被害が発生したとしても、その責任を学校・教師に負わせることは妥当ではないと言われています。

 A学校側の責任が問われる場合
 ただし、現実には、教師がいじめの徴候を察知し得る状態にあったり、また、実際に察知しているのに、それを放置しているケースも少なくないように思われます。

 このような事情が明白な場合には、学校側は安全義務違反の責任を免れ瑠事は出来ません
今後は学校側のいじめ対処能力を一層高めるとともに、学校の能力の限界を前提に、学校側とその他の第三者機関や父母及び父母集団との協力関係の構築が重要な課題となろう。


おわりに
この、「いじめと学校側の責任」というページを作った目的は、いじめ被害が発生した後に、学校側の責任追及をするために設置したのでは在りません。
 いじめ被害を訴えても学校側が取り上げてくれない、または対処してくれないという声を良く聞きます。
いじめ被害が無くならないのは、被害生徒がいじめを隠し、堪え忍んでいただけではなく、学校がいじめ事件を隠していたことから生じたものといえるのではないでしょうか。
いじめ被害は、事が大きくならない内に、子どもの肉体的、心理的な傷が小さい内に対処することが肝要であると言われています。
もし、親が子どものいじめ被害を察知し、あるいは確認したとします。

 そして、学校側へ対処を求め、早急に解決されれば問題は少ないのですが、そうならない場合も在ります。
その時には、学校側のいじめに対する義務履行の必要性を明示し、学校側の考え方を問いただしても良いのではないでしょうか。
学校側に苦情を言うのが目的なのでは在りません。
目的は、いじめ被害者の早急な救済です。
子どもを守るためには、親は色々な知識を持ち、その解決の為の手段を知っておくべきだと思います。


参考資料
参考1:文部省通知
文初中第386号
                               平成8年7月26日

 各都道府県教育委員会教育長
 各 都 道 府 県 知 事 殿
 附属学校を置く各国立大学長

                      文部省初等中等教育局長
                            辻 村 哲 夫

                      文部省生涯学習局長
                            草 原 克 豪


                いじめの問題に関する総合的な取組について(通知)


 児童生徒のいじめの問題への取組については,平成7年12月15日付け文初中第371号「いじめ問題への取組の徹底等について」をはじめとする一連の通知等を踏まえ,関係者において特段の努力が払われているところですが,依然としていじめの問題は極めて憂慮すべき状況にあります。
文部省としても,これまで,いじめの問題の解決のため,各種の施策を総合的に進めてきたところであり,平成6年7月以来,「児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議」において,いじめの問題に関する総合的な調査研究を行っていただいていたところ,このたび,別添のとおり,「いじめの問題に関する総合的な取組について〜今こそ,子どもたちのために我々一人一人が行動するとき〜」(報告)を取りまとめていただきました。
 この報告は,本会議が先に行った「児童生徒のいじめ等に関するアンケート調査」や現地調査の結果等を踏まえ,全ての人々が「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識に立つことなど,いじめの問題に関する5つの基本的認識を改めて確認した上で,家庭・地域社会,学校,教育委員会,国の具体的な取組について総合的な提言を行っています。
 特に,いじめの問題の解決のために家庭が極めて重要な役割を担うこと,また,少なくとも大人の一人一人がそれぞれの立場からその責務を果たすことについて強く述べているところです。

 学校については,「子どもの立場に立った学校運営」「開かれた学校」という二つの改善の視点を示した上で
  (1)実効性ある指導体制の確立
  (2)事実関係の究明,
  (3)いじめる児童生徒への適切な教育的指導
  (4)いじめられる児童生徒への弾力的な対応
  (5)積極的な生徒指
  (6)家庭・地域社会との連携協力等
について具体的に述べています。

とりわけ,いじめる児童生徒に対して適切な指導が必要であること,また,いじめられる児童生徒を徹底して守り通すということが強調されています。
 また,教育委員会については
  (1) 家庭教育に対する支援の充実
  (2) 学校での取組に対する支援の充実
  (3) 効果的な教員研修の実施
  (4) 教育相談体制の充実  
  (5) 学校外における多様な教育活動の充実等
について具体的に述べています。

 文部省としては,この報告を踏まえ,今後さらに関連施策の充実に取り組むこととしております。
 貴機関におかれては,特に下記の点に留意しつつ,本報告に盛り込まれている各種の提言を十分踏まえ,いじめの問題の解決のため取組の一層の充実,徹底を図るとともに,あわせて貴管下の学校及び市町村教育委員会その他の関係機関にこれらの趣旨を周知し,教師をはじめとする関係者の一人一人がこの問題の重大性を強く認識し,自らの切実な問題として積極的に取り組むよう改めて指導の徹底をお願いします。


                              

A 学校における取組の充実

1 基本的な考え方及び教育指導の在り方
(1) 学校は児童生徒にとって楽しく学び生き生きと活動できる場であることが大切であること。
学校は,いじめの問題の解決について大きな責任を有しており,「子どもの立場に立った学校運営」及び「開かれた学校」を基本姿勢として学校運営の改善を図る必要があること。

(2) いじめは人間として絶対に許されないという認識を一人一人の児童生徒に徹底させなけれなければならないこと。
いじめをはやし立てたり,傍観したりする行為もいじめる行為と同様に許されない,また,いじめを大人に伝えることは正しい行為であるという認識を児童生徒に持たせること。

(3) いじめられる児童生徒やいじめを告げたことによっていじめられるおそれがあると考えている児童生徒を徹底して守り通すという毅然とした態度を日頃から示すこと。

(4) 学校教育活動全体を通して,お互いを思いやり,尊重し,生命や人権を大切にする態度を育成し,生きることの素晴らしさや喜び等について適切に指導すること。特に,道徳教育,心の教育を通して,このような指導の充実を図ること。

(5) 学級(ホームルーム)活動や児童(生徒)会活動などの場を活用して,児童生徒自身がいじめの問題の解決に向けてどう関わったらよいかを考え,主体的に取り組むことは大きな意義があること。

(6) すべての児童生徒が自ら参加でき,分かりやすい授業を工夫するなど,個に応じた指導に努める必要があること。また,学習の遅れがちな児童生徒には十分な補充指導を行うとともに,学校行事や部活動等において自己存在感を持つことができる場合が多いことに配慮し,子どもの「心の居場所」となるような学校づくりに努める必要があること。

2 学校運営及び学級経営等の在り方
(1) 各学校において,校長のリーダーシップの下に,それぞれの教職員の役割分担や責任の明確化を図り,全教職員が一致協力して指導に取り組む実効性ある体制を確立する必要があること。

(2) いじめは児童生徒の成長にとって必要な場合もあるといった考えは認められないものであり,個々の教師がいじめの問題の重大性を正しく認識し,危機意識を持って取り組まなければならないこと。
また,教師の何気ない言動が児童生徒に大きな影響力を持つことに十分留意すること。

(3) いじめの問題への取組に当たっては,いじめの多寡以上に,いじめに如何に迅速かつ適切に対応し,いじめの悪化を防止し,早期に真の解決を図るかが大切であること。

(4) 児童生徒に対する親身な教育相談を一層充実させるため,養護教諭等との連携を積極的に図るとともに,教育相談室等の整備をはじめ,児童生徒にとって相談しやすい体制を整えること。また,全教職員が参加する実践的な校内研修を積極的に実施すること。

(5) 会議や行事の見直し等校務運営の効率化を図り,児童生徒や保護者と接する機会の確保と充実に努める必要があること。給食,遊び,清掃活動などを通して児童生徒と触れ合う機会の確保に努めること。

(6) 部活動の本来的機能を生かし適切に運営することは,いじめの問題に対する有効な方策となり得るものであること。部活動指導においては,児童生徒同士の人間関係や一人一人の個性に配慮するとともに,教師が部活動指導の多忙が理由で他の児童生徒との触れ合いを不足させることがないよう,校務分掌をはじめ学校全体として十分に配慮する必要があること。

(7) 児童生徒の仲間意識や人間関係の変化に留意しつついじめの発見や対応に努めるとともに,学校教育活動全体を通して,友情の尊さや心からの信頼の醸成等について適切に指導する必要があること。また,グループ内での児童生徒の人間関係の変化を踏まえ,学級経営やグループ指導の在り方,わけても班別指導について不断の見直しや工夫改善を行う必要があること。

3 いじめる児童生徒又はいじめられる児童生徒への対応
(1) いじめる児童生徒に対しては,保護者の協力を積極的に求めながら,教育的な指導を徹底して行うほか,一定期間,校内においてほかの児童生徒と異なる場所で特別の指導計画を立てて指導することも有効と考えられること。
また,いじめた児童生徒が,いじめを繰り返したり,いじめられる側に回ったりすることのないよう継続して指導すること。

(2) いじめの状況が一定の限度を超える場合には,いじめられる児童生徒を守るために,いじめる児童生徒に対し出席停止の措置を講じたり,警察等適切な関係機関の協力を求め,厳しい対応策をとることも必要であること。
特に,暴行や恐喝など犯罪行為に当たるようないじめを行う児童生徒については,警察との連携が積極的に図られてよいこと。

(3) いじめられる児童生徒には,いじめの解決に向けての様々な取組を進めつつ,児童生徒の立場に立って
,緊急避難としての欠席が弾力的に認められてよいこと
 その際,保護者と十分に連携を図るとともに,
その後の学習に支障を生ずることのないように工夫するなど十分な措置を講ずる必要があること。

(4) いじめられる児童生徒又はいじめる児童生徒のグループ替えや座席替え,さらに学級替えを行うことも必要であること。
また,必要に応じて児童生徒の立場に立った弾力的な学級編制替えも工夫されてよいこと。

(5) いじめられる児童生徒には,保護者の希望により,関係学校の校長などの関係者の意見等も十分に踏まえて,就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置について配慮する必要があること。
この場合,いじめにより児童生徒の心身の安全が脅かされるようなおそれがある場合はもちろん,いじめられる児童生徒の立場に立って,いじめから守り通すため必要があれば弾力的に対応すべきこと。

(6) 上記(1)から(5)の措置を講ずることについて,学校,教育委員会,及び保護者は,日頃から十分な共通理解を持っておくことが大切であること。

4 家庭・地域社会との連携
(1) 学校は「開かれた学校」の観点に立ち,日頃から,学校の対処方針や年間指導計画などいじめに関する情報を十分に提供して,保護者等の理解や協力を求めるとともに,各家庭でのいじめに関する取組のための具体的な資料として役立ててもらうような工夫が必要であること。
 また,いじめ等に関して学校に寄せられる情報に対し,誠意を持って対応することが必要であること。

(2) いじめの問題に関し学校と保護者や地域の代表者との意見交換の機会を設けるほか,特にPTAと学校との実質的な連絡協議の場を確保して,積極的に連携を図る必要があること。休日や学校外などにおけるPTA懇談会や保護者面談の開催など,開催時間や開催場所を見直して多くの保護者が参加しやすいように工夫する必要があること。


5 その他
(1) 体罰は学校教育法第11条において厳に禁止されているものであり,体罰禁止の徹底に一層努める必要があること。あってはならない教師の体罰がいじめへの取組に少なからぬ影響を及ぼしていることに留意すること。

(2) 校則は,学校の責任と判断において決定されるべきものであるが,児童生徒の実態,保護者の考え方,地域の実情等を踏まえ,きめ細やかで「個に応じた生徒指導」という観点から,より適切なものとなるよう絶えず見直しを行う必要があること。

B 教育委員会における取組の充実

1 家庭・地域社会との連携
(1) 家庭教育を支援するため,様々な学習機会や情報の提供,相談体制の整備,ボランティア活動など親子の共同体験の機会の充実,父親の家庭教育への参加支援など家庭の教育機能の充実を図る施策を計画的に推進すること。その際,家庭教育の意義に関心を示さない,あるいは,学校との連携に協力的でない保護者などへの方策について,子育てのネットワ−クづくりの推進などきめ細やかな施策が望まれること。

(2) 児童生徒が,学校外で豊かな生活体験を積み,健全な人間関係を育てていくため,青少年関係団体等とも協力しながら,学校外における多様な体験活動や集団活動の機会を積極的に提供していくことが必要であること。

(3) いじめの問題の解決のため,子どもたちに様々な社会体験,生活体験,自然体験を得させることを目的とした青少年団体やスポーツ団体などの各種団体の活動の一層の活発化,民間活力を生かした各種のプログラムの展開など,各地域の実情に応じ,創意工夫を生かした活動が積極的に展開されるよう,教育委員会としての支援策を積極的に講じること。
 特に,地域を挙げた様々な取組がなされるよう,教育委員会として地域の関係団体や機関などに積極的に働きかけること。

2 学校に対する支援の充実等
(1) いじめの問題の解決に向けて,例えば,校内研修の講師として指導主事や教育相談の専門家を派遣するなど各学校の取組を積極的に支援する必要があること。
 特に,生徒指導上困難な課題を有する学校に対しては,教職員の加配,年齢や経験を考慮した教員構成の在り方など教職員配置等について,可能な限り重点的,かつ優先的に行うよう配慮する必要があること。

(2) できる限り多くの教師がいじめの問題に関する実践的な研修を受けることができるよう配慮するとともに,管理職研修や専門的な研修をはじめ各種研修の受講者の区分に応じたきめ細かで効果的なプログラムを用意する必要があること。

(3) いじめの問題に関する国や教育委員会の通知などの資料が,具体的に学校でどのように活用されたか,その趣旨がどのように周知・徹底されたのかなど,学校の取組状況を点検し,必要な指導,助言を行って,学校の積極的な取組を促す必要があること。
 また,いじめの問題に関する校内研修や児童生徒に対する具体的な指導内容などについての点検も必要であること。

3 いじめる児童生徒又はいじめられる児童生徒への対応
(1) 深刻ないじめを行う児童生徒に対しては,他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するという観点から,やむを得ない措置としての出席停止を含む毅然とした厳しい指導が必要な場合があること。
 なお,出席停止を命ずる場合は,児童生徒及び保護者に対し出席停止の趣旨について十分説明するとともに,事前に児童生徒及び保護者の意見を聴取することに配慮すること。
 また,出席停止の期間が著しく長期にわたることがないよう配慮し,その期間中にも必要な指導を行うこと。

(2) いじめられる児童生徒を守るための方法の一つとして,就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置を講じることについて,時機を逸することのないよう留意すること。
 この場合,保護者の希望により,関係者の意見等も十分に踏まえ,いじめにより児童生徒の心身の安全が脅かされるような場合はもちろん,いじめられる児童生徒の立場に立って,いじめから守り通すため必要があれば,弾力的に対応すべきこと。

4 組織体制の充実等
(1) 都道府県や市町村の教育委員会においては,学校指導事務担当課だけでなく,広く関係する部課においてもいじめの問題を自らの課題として取り組み,教育委員会が一丸となってこの問題に対する取組を進めていく必要があること。
また,私立学校担当課と情報交換をはじめ十分な連携を図りながら取組を進めていくことが必要であること。

(2)教育相談員の配置を積極的に進めるなど,教育委員会や教育センター等の相談体制の整備・充実を図るとともに,利用者の相談ニーズに配慮し,相談時間を延長するなど相談窓口の開設時間の工夫等を行うことが必要であること。教育センター等の相談員や臨床心理士などの指導助言の下に,教員養成学部の学生など児童生徒に比較的年齢の近い者を相談相手とする方策なども検討されてよいこと。

(3) 適応指導教室や民間の施設との指導面でのより一層緊密な連携を図るとともに,校内研修や教育委員会が実施する教員研修への講師の派遣について協力を求めることも大切であること。児童福祉,人権擁護,警察,医療等の関係相談機関と定期的な情報交換・研究協議の機会を設けるとともに,研修会の講師など機関相互における人材の有効活用等の工夫を行うなどして,これらの機関と学校との一層緊密な連携を図る必要があること。

(4) 各学校において,教師と児童生徒や保護者が触れ合う機会を十分確保する観点から,教育委員会は例えば学校を対象とする諸会議の開催や調査報告の求め方,各種の調査研究の在り方,教員研修の体系化等について積極的に検討し改善することが必要であること。
 なお,国においても,学校を対象とする各種調査の方法や内容,調査研究の在り方などについて検討し改善を図ることとしている。


参考:2
  教育基本法(H18改正)  学校教育法(改正H19)  教育再生会議:いじめ問題への緊急提言